2024年8月29日にRolandから新しくV-80HDが発売された。
SDI/HDMIをそれぞれ4入力備えた新しいダイレクト・ストリーミング・ビデオ・スイッチャーだ。
イベント配信では同じくRolandから発売されているV-1SDIを2021年7月に購入して使っていたが、
この度全てのシステムを入れ替えてメインのスイッチャーをV-80HDへと変更した。
VR-120HD、V-160HDに次ぐフラッグシップスイッチャーと言って良いだろう。
※なお2024年11月現在、V-60HDは販売終了しV-60HDの後継機としてV-80HDが販売されている。
Roland公式の製品ページや仕様書から分からなかったメニュー内容などについても詳しく説明していきたいと思う。
長くなることは明白なので目的の項目へは目次から飛んでもらいたい。
目次
V-80HDのスペック
まずは簡単にV-80HDのスペックを押さえておきたいと思う。
映像入力 | SDI IN1〜4/HDMI IN1〜4 |
---|---|
映像出力 | SDI OUT1〜2/HDMI OUT1〜3 USB OUT/STREAM OUT |
映像スルー出力 | HDMI IN3〜4スルーアウト(4K 60p対応) |
音声入力 | Audio IN 1〜2(コンボジャック) Audio IN 3〜4(RCA LR) Bluetooth入力 |
音声出力 | Audio OUT(XLR) 3.5mmジャックステレオ |
オーディオ・プレーヤー | 最大64曲メモリ可能(.wav) |
ビデオ・プレーヤー | .mp4(1ファイルのみ) |
静止画 | 32枚までメモリ可能(.jpeg/.jpg/.png/.bmp) |
重量 | 3.5kg |
寸法 | 396 (幅) x 254 (奥行) x 103 (高さ) mm |
VRシリーズではないため音声の入出力は少ないが、最低限の入力は兼ね備えている。
更に各映像出力にはどの音声を出力するか選択できるため、映像に音声をエンベデッドしておけば様々な入力を多様な組合せで出力することができる。
V-80HDの詳細
V-80HDの外観や同梱物を詳しく見ていく。
今回はフジヤカメラで購入した。箱を開けるとスタートガイドが入っている。
シンプルな同梱物で紙のガイドとACアダプター、本体のみだ。
V-80HDの手前側。音声モニター用の3.5mmジャックと音量調節つまみ。それとUSBホスト用の端子、SDカードスロットがある。
USBやSDカードからメディアを読み込んだり、録画をしたりすることができる。
左側面と右側面。基本的には何もなく通気口のみだ。
本体のサイズ感としては手持ちの15.4インチモバイルモニターに近い感じだ。
厳密にはそれよりも少し大きいく高さもあるし、重量も3.5kgあるので印象としては結構大きく感じる。
しかし卓に置いた時の感覚では16インチ程のモニターをおけるスペースがあれば配置することができる。
ACアダプターについては幅125.0mm、高さ30。0mm、厚さ51.1mmだ。
V-80HDの保管・運搬について
ACアダプターのサイズを記載した理由としてはV-80HDの運搬においてケースの選択を迷ったからだ。
本体は幅396mm x 奥行254mm x 高さ103mm で、Acアダプターは幅125.0mm x 高さ30.0mm x 厚さ51.1mmだ。
トータルとして幅約525mm x 高さ133mm のサイズが入るハードケースが必要だった。
そこで選択したのがLykus HC-4420というハードケース。
Lykus HC-4420 防水ハードケース 格子状カットスポンジが内蔵 内寸:44x29x17cm 一眼レフカメラ、レンズ、ド...
ACアダプターを底面に置きその上にV-80HDを重ねることでジャストフィットな収納ケースとすることができた。
フジヤカメラではPULSE(パルス)社製のV-80HD用ハードケース PAHC-V80HDも販売している。
しかし販売価格が39,400円と高額だ。
photo via フジヤカメラ
今回選択したLykus HC-4420はジャストフィットで持ち運び燃しやすくなったし、フジヤカメラのケースに比べると1/4程度の価格で買うことができる。
V-80HDの良いところ
早速ではあるがV-80HDの良いところと悪いところを挙げていきたいと思う。
細かい設定の内容や内部構造に関しては随時追記していく。
良いところ01:ちょうど良い入力
今まで使用していたV-1SDIは、SDI IN1〜3、HDMI IN3〜4(IN3はSDIかHDMIどちらか選択)という形だった。
パソコンからのプレゼンテーションをHDMIで出力したり、無人の固定カメラがHDMIにしか対応していなかったりと、SDIの入力は十分だがHDMIの入力が足りない場面が数回あった。
また、僕が行っているイベント配信は格闘技のため『リプレイ』が必要になる。
『リプレイ』は現在同じくRoland社製のP-20HDを使用している。
P-20HDは残念ながら現在HDMIの出力のみだ。
1〜3CamがSDI入力で4CamがHDMI入力、さらにリプレイがHDMI入力という形で入力端子不足を感じていた。
V-80HDに乗り換えた結果1〜4CamがSDI入力、リプレイがHDMI入力と非常にスマートな入力系統へ切り替えることができた。
リプレイへのスイッチングが別のスイッチャーになるため、メインのスイッチングオペレーターと息を合わせながらやっていたが、新環境ではそれらのスイッチングを全て一人で行えるようにした。
単純に入力数が増えたことでコンバーターの数も減らせ電源の数も少なくできた。
接続箇所が少なく済むのでトラブルが起こる頻度も減らせるし、トラブルシューティングもしやすくなるだろう。
良いところ02:豊富な映像出力
最近のイベントは会場への入場がありつつオンラインでの配信も行いつつというハイブリッドイベントが増えている。
前述したが僕が主に行っているイベント配信は格闘技だ。当然会場のスクリーンに画を映すのと同時に配信も行う。
さらに厄介なのが【テロップ類が載った映像】と【完パケの映像】いわゆる白と黒をそれぞれ録画しておく必要がある。
- 会場スクリーンへの返し(完パケ)
- 白 Rec.
- 黒 Rec.
- 放送席返しモニター(完パケ)
- スイッチャーのマルチ
単純計算でこれだけの出力先と出力ソースを選択する必要がある。
今まではHDMI to SDIのコンバーターを介すことで出力先に対応していたが、V-80HDを導入してから分岐やコンバーターを介す数が圧倒的に減った。
現在はテロップ合成をATEM Mini Extreme ISOで行っているのでHDMI OUT1をテロップ用に、HDMI OUT2をスクリーン用に、HDMI OUT3をスイッチャーのマルチビューとして使っている。
白Recと黒RecはそれぞれSDIでShogun7に入力することで、Shogun7は3G-SDIのマルチチャンネル録画ができるので完全に同期が取れた白と黒を同時に録画できるようになった。
良いところ03:出力ソースを複数選べる
前述の項目と関連する内容になるが、V-80HDは出力するソースを複数選ぶことができる。
具体的には
- プログラム
- サブ・プログラム
- プレビュー
- AUX1
- AUX2
- DSK
- マルチビュー
- インプットビュー1
- インプットビュー2
- 4分割ビュー
これらの中から選択可能だ。そしてAUX1とAUX2はHDMI IN1~4、SDI IN1~4、ビデオプレーヤー、静止画の中から選べる。
ちなみにV-80HDはUSB出力も上記の中から選択可能なので、HDMI/SDIからプログラムを出してUSBではマルチビューを見るということも可能だ。
さらに、【プログラム】【サブ・プログラム】【AUX1】【AUX2】のソースは【PinP&Key1】【PinP&Key2】【DSK】の3つレイヤーを乗せるかON/OFFで選択することができる。
白・黒収録時には、SDI OUTをそれぞれ
- プログラム(レイヤー全てOFF)
- AUX1(黒をHDMI IN1などに入れる→ソースを入力chに設定)
このように設定しテロップが乗っていない『白』とテロップが乗っている完パケ『黒』をそれぞれSDIから出力してShogun7で同時録画している。
僕はテロップやVTR出しをATEM Mini Extreme ISOを経由して行っているのでこのようなシステムになっている。
V-80HDの悪いところ
V-80HDは2024年8月に発売されたばかりのRolandの最新ビデオスイッチャーだ。
最新テクノロジーをしっかり詰め込んで、現代の需要にもしっかり答えられるように作り込まれている。
どんな現場でもそつなくこなしてくれる。しかし不満点が無いわけではない。V-80HDを現場に持ち出し感じた不満点を挙げていきたいと思う。
悪いところ1:起動が遅い
V-80HDに電源を繋げてすぐに使用することは100%無い。準備の時間が確実にあるので起動時間が遅いことによるデメリットは無い。
しかし、電源ボタンを押してから使える様になるまで約1分30秒かかった。
すでに仕込みを終えた状態でスイッチャーオペレーターが到着してから起動した場合、約1分30秒は待ってもらうことになる。
搭載しているOSがそもそも違うので単純比較は当然できないが、V-1SDIの時は割と起動が早かったので比べてしまうとV-80HDの起動は遅いと感じてしまう。
とはいえ、実使用上問題は全く無いのだが…。
悪いところ2:ビデオプレーヤー制御の挙動
今回V-80HDと同時に発表された目玉機能としてGraphics Presenterがある。
Graphics Presenterについては別記事を作成したいと考えているが簡単に説明すると、動きのあるテロップや得点板、スティンガー(トランジション)をWindows PCと連携してV-80HDに出力することができるものだ。
多くの人がGraphics Presenterを使用してスティンガーを出そうと考えるだろう。
しかし個人的にはGraphics Presenterの挙動が用途に合わず、ビデオプレーヤーをDSKソースに割り当てて擬似的なスティンガーとして使用している。
実際に使っているmp4ファイルだ。※ループ再生しています。
黒くなっている部分はDSKで抜くことができるので、リプレイに入る前と出る前に再生してトランジションとして使用している。
ビデオ再生はマクロに設定が可能で、アサイナブルパッドに再生/停止を割り当てていた。
この時に再生を押してからワンテンポ遅れてビデオ再生が開始される。これが非常にストレスだった。
リプレイを出すタイミングはラウンド間の1分(実際は40秒もない)。
1秒に満たないビデオ再生の遅れだが、リプレイを出すタイミングではその1秒が非常に重要になる。
一応現時点ではマクロを工夫することで問題を回避できるところまで来ている。
- DSKをON
- ビデオプレーヤー制御(再生):直前の操作の後に実行
- 待ち時間1.3s:直前の操作と同時に実行
- PGMテイク(PSTに切り替え):直前の操作の後に実行
- 待ち時間1.0s:直前の操作と同時に実行
- ビデオプレーヤー制御(停止):直前の操作の後に実行
- ビデオプレーヤー制御(再生):直前の操作の後に実行
- ビデオプレーヤー制御(一時停止):直前の操作の後に実行
今はこのマクロを組んでいる。
ビデオプレーヤー制御(停止)を入れることでビデオの再生が停止し再生ヘッドが頭に戻る。
ビデオプレーヤー制御(再生)でビデオの再生準備までをこの時点で開始。
再生直後にビデオプレーヤー制御(一時停止)によって頭出しを終えた状態で一時停止。(次回再生を早める)
このマクロを組んでからはアサイナブルパッドに割り当てたマクロを押して比較的すぐにビデオプレーヤーの再生が開始されるようになった。
途中までは自分自身でマクロを組んだが、後半2つのマクロはRolandのサポートから提案されたマクロだ。
実際試したところ気持ち早くなった様な気がしたので、この方法で運用していこうと思っている。
ちなみにRolandサポートは非常に丁寧かつ詳細に教えてくれた。
V-80HDレビューまとめ
V-80HDはほぼ不満が無いと言って良いだろう。
悪いところもいくつか挙げたが現時点では対策も取れたので、実使用上問題はほぼ無い状態だ。
V-1SDIから乗り換えたという状況もあるだろうが今までやりたかったことが出来るようになり、今後Graphics Presenterのアップデートなども期待できる。
基本的には格闘技のイベント配信をメインでやっている。
4Cam体制が限界でATEM Mini Extreme ISOを組み合わせてどうにか対応してきた現場がV-80HDによって、余裕で対応できるようになった。
更にまだできることに余裕があるという状況だ。
V-80HDがあればあらゆる現場・あらゆるニーズに応えられそうな気持ちにさえしてくれる。
価格も約50万円と決して安くは無いが、V-120HDとほぼ同等の機能で価格を入力を少なくしただけと考えて良いだろう。
50万円という価格は安くはない。しかし性能とこの先5~6年現役で居続けてくれると思うと決してコスパが悪い製品では無いだろう。
簡単に手を出せる額では無いが、レンタルなども増えてきているのでぜひ一度触ってみてほしい。
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